韓国は日本と比べると肉を食べることが多い国です。
特にサムギョプサルは日本でも知っている人の多い定番の人気メニューですね。
ところで韓国ではいつからこんなに肉を食べるようになったのでしょうか。
朝鮮半島の食肉文化と、それに関連したことわざなどを紹介していきます。
食肉の習慣の発展と衰退
昔は豚肉の方がよく食されていた
人間はもともと狩猟による生活をしていたこともあり、朝鮮半島でも肉を食べるという習慣は昔からありました。
農業が発展していく中で家畜の飼育も行われるようになっていきますが、三国時代の高句麗では一般的に豚肉の方がよく食べられていたといいます。
豚肉を양념(タレ)に漬け込んで焼いた、맥적(貊炙)という伝統料理などがそうです。
ところで牛は労働力にもなる貴重な動物でもあることから、牛肉は祭祀の際に献上され、王や貴族たちが好んで食べたと言われています。
しかし仏教が広まっていくと動物の殺生禁止令の影響もあり、食肉の習慣は衰退していきます。
王様が許可した時だけ牛肉を食べれる
高麗時代の後期、モンゴル人たちが入ってくるようになると、彼らの影響を受けて再び食肉の文化が復活していきます。
朝鮮時代には너비아니구이という宮廷料理も作られました。
※現代の불고기(プルコギ)のような料理
ところで牛肉を食べれるのは王族など限られた人たちのみで、一般市民は王様が許可した時にしか食べれませんでした。
水原は왕갈비(王カルビ)など牛肉で有名ですが、これは水原が王の別荘地でもあったためです。
王が別荘を訪れる日は牛肉を食べることが許可されたそうです。
なかなか「禁止令」が守られなかった?
朝鮮時代には외양간という専用の管理小屋が建てられるほど、牛は貴重な動物でした。
우금령(牛禁令)といって、むやみやたらに牛を屠殺(とさつ)してはいけない法律もあったくらいです。
しかし禁止令が守られなかったり、法の抜け穴を利用して牛肉を食べるというケースが相次ぎました。
なぜなら食用目的で牛馬を殺すことはできないものの、合法的に牛を食べる方法「牛の足を折る」はあったからです。
昔は牛乳を採取するという考えがなかったため、足を負傷した牛は農作業には使えず、殺処分するしかありませんでした。
そのため「牛が足を負傷してしまった」と役人に報告することで、堂々と牛肉を食べることができるようになります。
旧正月や秋夕といった명절(名節)が近づくと「負傷した牛」の報告件数が急増したという記録も残っているそうです。
役人も意図的に牛の足が折られたのかはわからないので、特例として屠殺を認めることになります。
勝手に牛肉を食べたことがばれると?
禁止されているにもかかわらず、勝手に牛馬を屠殺したことが発覚すれば、処罰を受けることになります。
また他人の牛を盗んで屠殺した場合、最も重い刑として絞首刑が言い渡されたようです。
소 잃고 외양간 고치다(牛を失ってから牛舎を直す)のようなことわざからも、牛の盗難は頻繁に発生していたのでしょう。
※泥棒を見て縄を綯う
ちなみに勝手に牛を食べたのがばれても、役人に賄賂を渡すことで見逃してもらうケースも多かったようです。
외상이면 소도 잡아먹는다「ツケなら牛だって食べる」
後先考えずに行動すること
みんな牛肉が大好きだったわけですが、そこから生まれたことわざが외상이면 소도 잡아먹는다「ツケなら牛だって食べる」です。
これは「後先考えずに行動すること、今がよければそれでいい」という考えを言います。
牛は家畜としても重要ですが、それを潰してまで食べてしまう行為から出てきた言葉です。
食料に困って牛や馬を屠殺したのではなく、牛肉が食べたいという欲求に従って行動した結果ですが、見境なしに行動することを警告しているとも言えます。
似た意味のことわざは?
同じような意味のことわざには、次のようなものもあります。
ツケなら親戚の家の牛も食べる
외상이면 꺼멍 소도 잡아먹는다.
ツケなら黒い牛だって食べる
사돈집とは結婚した身内の配偶者の家族を指します。
簡単に言うと結婚によって親戚関係になった人のことですが、その親戚の家の牛にまで手を出すという意味です。
日本にも似たことわざはある?
日本のことわざでも「後先考えずに行動する」という意味では、後先見ずの猪武者という言葉があります。
猪のまっすぐ前に進む習性をそのまま敵陣に突っ込んでいく武士に例えた言葉で、いわゆる「猪突猛進」です。
がむしゃらに突っ走っていくので、状況を考えない思慮に欠ける人を猪に揶揄しています。
いくら牛肉好きとはいえ、他人の牛を捕まえて食う人もいるくらいぐらいなのだから、相当なものです。
また国が禁止令を出すほどなので、深刻な社会問題だったのでしょう。
しかし牛肉を食べる習慣がなかったら、今日のホルモンやユッケといったメニューもなかったかもしれません。